多機能型精神科診療所とは

多機能型精神科診療所という言葉を皆さんはご存知でしょうか?精神科診療所の多くは、外来診療のみで、うつ病やパニック障害、適応障害などの患者さんを診療しています。しかし、当院のようにデイケアを併設したり、心理カウンセリングや訪問診療や訪問看護を行うなど、外来以外の機能を充実させた精神科診療所があり、こうした診療所を多機能型精神科診療所と呼ばれております。錦糸町にあるクボタクリニックの窪田彰先生を中心に、多機能型精神科診療所研究会が設立され、こうした診療所の機能をさらに高めるべく交流や研究会を行っています。

 そもそも、なぜ当院が多機能化していったかを考えると、必要としている患者さんたちがいたことからです。荒川区は、精神病院がなくまた総合病院の精神科の病床もありません。足立区や板橋区に行けば精神科病院がありますし、文京区には多くの大学病院がありますが、荒川区は精神科地域医療という観点ではエアーポケットでした。このために、当院が開業当時は、精神障害の方がある程度回復した後の社会復帰訓練や再発防止のための施設をさがしても作業所以外はあまり見当たらない状態でした。このために、いわば必要に迫られて精神科デイケアを作ったのが平成12年5月のことです。

 精神科デイケアは、精神障害は回復したけれど、社会復帰にはまだという方やそのままでいると社会との交流を絶ってしまい引きこもってしまうような方を対象に活動性を向上させたり、対人交流を活性化するプログラムを提供する場です。こうした機能を備えることで、精神障害の再発を防いだり、より社会機能を回復させることができるようになりました。当院のデイケアを利用して多くの患者さんたちが、就労したりあるいは就労継続支援事業所に通所するようになりました。

 精神障害の方の再発防止や症状改善には、在宅診療や訪問看護も必要です。認知症の方や引きこもりの方など通院困難な方には訪問診療で、ご自宅に訪問して診療したり、訪問看護で日常の生活の指導や服薬を確認したりする必要のある方も多くいらっしゃいます。精神症状が悪化して通院をしなくなってしまった方には、臨時で自宅で診療することが必要になる場合もあります。こうした患者さんの必要に答えるには、訪問診療や訪問看護のメニューも必要です。当院では、こうした診療を開院当時から細々と継続しています。訪問診療専門であったり、訪問看護ステーションを併設しているわけではないので数は決して多くはありませんが、患者さんの治療を切れ目なく継続していただくにはこうした部門も必要と考えております。

 このほか、心理カウンセリングも重要な部門です。最近は当院の外来も多少混み合っていて十分な診療時間を取れないことがないとは言えません。しかし、外来患者さんの中には、たんなる精神障害だけではなくご本人の心理状態や環境の問題が精神症状に大きく影響している方が少なくありません。こうした患者さんには、薬物療法だけでは症状は改善せず、時間をかけてカウンセリングを行うことが必要です。当院では、平成10年から心理カウンセリングを導入してきました。

 また、平成27年9月からは認知症疾患医療センターとして東京都から指定を受けて活動しています。これは今後、高齢化や認知症の方が増えるための対策として、国が策定した新オレンジプランに沿って指定されたものです。認知症の鑑別診断や認知症治療のネットワーク作りが主な役割です。当院では区の高齢者福祉課や荒川区医師会、各地域の地域包括支援センターや介護保険事業所と連携して認知症対策の活動を積極的に行っています。

 こうした多職種(医師、看護師、臨床心理士、精神保健福祉士)による、精神科治療やリハビリにおいて多機能化してきたのが当院の20年の歴史です。今年20周年を迎えるに当たり、6月から就労継続支援B型事業所をオープンしました。これも精神障害の方のリハビリテーションを行う事業所で、医療ではなく福祉の事業です。デイケアで長年通所してきたけれど、さらに先の展開が必要になったかたが徐々に増えてきたことに対しての対応策として設立することにしました。

 こうして見てみると、多機能型精神科診療所といっても、地域のニーズにこたえて工夫してきた結果、こうした形態となったといえると思います。全国各地に、こうした多機能型精神科診療所はすでにいくつかありますが、すべてこうした地域にニーズによって発展してきている診療所です。当院も、これからも地域のニーズにこたえる形で、診療を継続してきたいと思っています。